周術期(手術前後)の がんリハビリテーションの効果
診療技術部リハビリテーション室
がんリハビリテーションとは
がんになると症状やその治療によるさまざまな弊害(※)が起きる場合があります。それらが原因で、日常生活に支障をきたしたり、仕事を辞めざるを得ないなど、生活の質(QOL:クオリティー・オブ・ライフ)を低下させる患者さんも少なくありません。がんリハビリテーション(以下がんリハ)とは、そのような弊害や身体的・心理的な障害を予防・緩和し、患者さんの回復力を高め、残っている能力を維持させ今までと変わらない生活を取り戻すことを支援するものです。
※がんによる症状や治療による弊害(一例):痛み、痺れ、言語障害、排泄障害、筋力低下など(個人差があります)
がんと診断された早期から開始します
通常、術後リハビリといえば、術後にADL能力の低下が著しくみられる高齢者への介入が主で、介入も発生した弊害に対して行ないます。
一方がんリハは、がんと診断された後、早い時期に開始され、手術や抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療などが始まる前、あるいは実施された直後から行なうことで、治療に伴う合併症や後遺症などを予防します。
また、治療と並行して行なわれるため、病状の変化をはじめ、あらゆる状況に対応することが可能で、治療のどの段階においても、それぞれのリハビリの役割があり、患者さんが自分らしく生きるためのサポートを行なっています。例えば、歩行訓練などの運動器リハビリだけではなく、呼吸器リハビリや排泄・言語障害に対応したものまで、細やかに対応して行ないます。
周術期のがんリハに期待されること
がんリハは発生した弊害だけでなく、予測される弊害に対する予防的側面も含んでいます。がんリハの目的は、「退院時のADL(日常生活動作)能力を術前のレベルに戻す」ことです。
また、以下の目的で行ないます。
(1)早期の在宅・社会復帰 (2)肝機能や栄養状態の悪化の予防
(3)疲労感や不安の軽減 (4)睡眠の改善 (5)転倒予防 (6)心のケア
がんリハの様子
筋肉量を部位別に測定します。各筋肉の発達程度とともに身体の上下・左右が均衡に発達しているかを調べます。
徒手筋力計による筋力評価・筋力訓練を行なっているところです。大腿四頭筋の筋力トレーニングを5~8回ほど行ないます。
病気や手術で落ちた体力を、有酸素運動を行なうことで向上させる効果があります。
5~10分ほど続けます。
手術前には、術前ADL評価、呼吸リハビリ、術後リハビリの説明などを行ないます。
手術後は、患者さんの状態にあわせて、目標設定、早期離床、起居動作訓練、呼吸リハビリ、筋力訓練、ストレッチ、日常生活動作の訓練などを行なっています。
歩行訓練を10~15分、ストレッチを5~10分、筋力訓練、有酸素運動などで計40分ほどのリハビリを一日に行ないます。
※上記はリハビリの一例です。実際のリハビリの内容は患者さんごとに異なります。
当院でのがんリハの効果
当院でがんリハを行なった疾患
上行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、胃がん、十二指腸乳頭部がん、胆のうがん、盲腸がん、直腸がん、横行結腸がん、肝がん、前立腺がん
当院でのがんリハ導入前後の比較
当院の患者さんでは、入院後リハ開始までの日数は、がんリハ導入前は平均6.9日だったのが、がんリハ導入後は平均6.4日に短縮しました。術後リハ開始までの日数は平均3.3日から2.1日に約1.2日短縮し、術後歩行までの日数は、平均4日から1.9日になり、約2日短縮しました。
また術後退院までの日数は、がんリハ導入前は平均33日でしたが、平均22.1日になりました。約11日短縮しています。
対象者/がんリハ導入前の術後リハ実施者:26名、がんリハ導入後の術後リハ実施者:21名
当院では、がんリハが開始されたことを機に医師と看護師、理学療法士、作業療法士といった多職種の連携のもと、がん診療の中にリハビリが定着してきました。以前は、高齢で日常生活に問題があるがんの患者さんだけが対象でしたが、すべての年齢層でリハビリを受けられるようになりました。その結果として、早期リハ開始、早期歩行、早期退院が可能な患者さんが増えてきました。
この記事は2017年1月現在のものです。