糖尿病と老年症候群~元気に長生きするためにできること~
内分泌・代謝内科
老年症候群とは
老年症候群とは、加齢とともにみられるさまざまな病気や状態の総称です。
代表的なものに、認知症、骨粗鬆症、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)などがあります。
これらが進行すると、日常生活動作(ADL)が低下します。
ADLとは、食事や移動、入浴、着替えなど、日常生活に必要な基本的な動作のことです。
ADLが低下すると、自立した生活が難しくなり、やがて要介護状態につながることがあります。
平均寿命と健康寿命
平均寿命とは、「亡くなるまでの期間」を指します。
一方、健康寿命とは、「健康上の問題なく自立して生活できる期間」のことです。
この2つの差が大きいほど、介護が必要な期間が長くなります。
令和4年の調査では、この差は
- 男性:約8.5年
- 女性:約11.6年
と報告されています(図1)。
つまり、多くの方が「人生の最後の約10年前後」を、何らかの制限を受けながら過ごしていることになります。
元気に長生きするためには、この期間をできるだけ短くすることが重要です。
(図1)
日本における要介護の主な原因
高齢の方が要介護(注1)なる原因には、以下のようなものがあります。
- 認知症
- 脳血管障害(脳卒中など)
- 骨折・転倒
また、要介護の一歩手前である「要支援(注2)」では、
- 関節の病気
- 加齢による衰弱(フレイル)
- 骨折
- 転倒
が多くみられます。
これらを予防・早期発見することが、健康寿命を延ばすうえで重要です。
糖尿病と老年症候群
糖尿病のある高齢の方では、ADLが低下しやすいことが分かっています。
例えば、
- 買い物や家事など(手段的ADL)は約1.6倍
- 食事や移動など(基本的ADL)は約1.8倍
低下しやすいと報告されています。
その背景には、糖尿病の方では、認知症、骨折、サルコペニアが起こりやすいことが関係していると考えられています。
健康寿命をのばすためにできること
では、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。
<血糖コントロール>
血糖値を適切に管理することは重要です。
しかし、「下げすぎ」にも注意が必要です。
特にインスリンや一部の内服薬を使用している場合、低血糖が起こることがあります。
低血糖は、・転倒や骨折・認知機能の低下、につながる可能性があります。
そのため、高齢の方では「厳しすぎない血糖目標」が設定されています (図2)。
ご自身に合った目標については、主治医と相談することが大切です。
(図2)
<食事>
食事も健康寿命に大きく関わります。
例えば、地中海食(野菜、果物、魚、豆類、オリーブオイルを中心とした食事)は、フレイルの予防に役立つ可能性が報告されています。
フレイルは、ADL低下の一歩手前の状態で、その予防は、将来的な介護予防につながります。
また、筋肉を維持するためには、十分なタンパク質を毎食バランスよく摂ることが大切です。
<運動>
運動も重要な要素です。
有酸素運動(歩行など)と筋力トレーニングを組み合わせることで、移動能力の低下、認知症の発症を抑える可能性が示されています。
また、長時間座っている時間が増えると、健康リスクが高まることも分かっています。
日常生活の中で、家事、歩行、立ち上がる動作などNEAT(ニート(注3))を増やすことも大切です。
<睡眠>
睡眠の問題は、転倒、骨折のリスクを高めることが知られています。
また、短すぎる睡眠、長すぎる睡眠、睡眠の質の低下、いずれもADL低下に関係するとされています。
必要に応じて、睡眠の原因を評価し、治療や薬の調整を行うことで改善が期待できます。
まとめ
「元気に長生きする」ためには、特別なことだけが必要なわけではありません。
- 血糖を適切に管理する(下げすぎない)
- バランスのよい食事をとる
- 体を動かす習慣を持つ
- 良い睡眠を心がける (図3)
こうした日々の積み重ねが、健康寿命を延ばすことにつながります。
医学はまだ発展の途中ですが、少しずつ新しいことが分かってきています。
当院では、皆さまが「元気に長生きする」ことを目標に、日々の診療を通じてサポートしています。
気になることがあれば、いつでもご相談ください。
(図3)
注1)要介護(身の回りのことに介助が必要) 立ち上がることや歩くこと、排泄の始末などが自力では困難。「生活を維持するための直接的な介助」が必要な段階。
注2) 要支援(身の回りのことは概ねできる) 家事の一部(掃除や買い物など)に手助けが必要だが、食事やトイレなどは自分でできる。「悪化を防ぐためのサポート」が必要な段階。
注3) NEAT(ニート)とは、日常生活活動。
この記事は2026年6月現在のものです。






























