結核のお話
呼吸器内科
はじめに
現在この原稿を書いているときは新型コロナウイルスが広がりを見せていますが、今回は、過去の病気と思われている「結核」について説明したいと思います。日本では毎年約18,000人が新たに結核を発症し、毎年約1,900人が結核で死亡しています。〈図1〉
結核とは
結核とは「結核菌」という細菌が直接の原因となって起こる病気で、最初は炎症から始まります。初期の炎症が進むと、やがて「化膿」に似て組織が死んで腐ったような状態になります。このような状態の時期が肺結核ではかなり長く続き、レントゲンなどに写る影の大半がこの状態の病巣です。その後、死んだ組織がドロドロに溶けて、気管支を通して肺の外に排出されると、そこは穴の開いた状態になります。これが空洞です。空洞の中は空気が十分にあり、肺からの栄養もあるので結核菌には絶好の住処となり、菌はどんどん増殖します。空洞をもった結核患者が感染源になりやすいのはこのためです。このような病巣からの菌が肺の他の場所に飛び火したり、リンパや血液の流れに乗ったりして、他の臓器に結核の出店を作ることもあります。こうして結核は肺全体、全身に広がって行きます。そして最後には肺の組織が破壊され呼吸が困難になったり、他の臓器の機能が冒されたりして、生命の危機を招くことになります。
結核の感染と発病
私たちが普通に会話しているときにも、肺の奥から目に見えないシブキが吐き出されます。”ゴホン〞と1回咳をすると、普通の会話の時の5分間分にあたる大量のシブキが放出されるといいます。たまたま、この人が肺に結核の病巣を持つ人であった場合には、このシブキの中に結核菌が含まれて、これが近くにいる人に吸い込まれると感染を起こします。結核菌が肺に入って増殖を始めると、肺にはまず軽い肺炎のような変化が起きます。同時に肺のリンパ節が腫れるようなことも起きますが、これらの変化は軽いため、たいていは気づかれないのが普通です。そのうちに人間の身体のほうに結核に対する「免疫」つまり抵抗力ができ上がります。こうなると、人体のほうが結核菌よりも強くなるので、でき始めた病巣は治り、結核菌は抑え込まれてしまいます。結核菌が肺に侵入してから2〜3カ月の間にこのようなことが起こります。抑え込まれた結核菌はそのまま殺されたわけではなく、肺の中で冬眠状態に入るのです。そして人体の側の免疫力が低下すればいつでも暴れだします。これが結核の「発病」ということになるのです。成人の結核はこのようにして感染を受けてから1年以上、長い場合には何十年も経ってから、菌が人の「弱み」に乗じて暴れだした結果起こる病気です。時として感染直後に十分な免疫ができにくい場合、初期の病巣がそのまま進行して病気になることもあります。赤ちゃんや子供の結核の大部分、青年がかかる結核の一部はこのように発生します。〈図2〉
結核の症状
結核の臨床症状は全くの無症状から重度の呼吸不全までさまざまです。病変の広がりが小さければ症状も軽い傾向があり、疲労や感冒などとして見逃される場合が少なくありません。個々の症状からは直ちに結核の診断に結びつかないですが、症状の組み合わせが肺結核の病像を構成し、診断の手がかりになります。すなわち、微熱、易疲労感、寝汗が続くと結核が疑われ、体重減少や咳・痰が出現すると肺結核を強く疑うこととなります。
結核の検査・診断
結核の発症が疑われる場合、胸部レントゲン検査や胸部CT検査などの画像検査や、痰の中に結核菌がいないか喀痰検査が行なわれます。喀痰検査では顕微鏡で観察することにより結核菌を排菌(他人に感染するような形で吐き出しているか)しているかを調べます。また、痰の培養から結核菌の存在を遺伝子レベルで調べるPCR検査もあります。
結核の治療
結核を他の人にうつす可能性があるため、感染症法に基づき、専門の医療機関に入院して治療を受けることになります。入院期間は約2カ月で、排菌が止まって他の人にうつさないことが確認されてから退院し、通院治療に移ります。治療に関しては化学療法(服薬)を中心とし症状や経過によりますが、おおむね6〜9カ月間程度行ないます。
感染の発症を防ぐには
感染・発症予防のどちらにも共通することは、体の免疫力を高めておくことです。免疫力を高めるには、規則正しい生活と栄養バランスの良い食事、十分な睡眠、適度な運動といわれています。普段から夜更かしなどの不規則な生活を行なわず、健康的な生活を心がけてください。