胃がんの99%は「ピロリ菌」が原因!?
消化器内科
ピロリ菌って何?
みなさん、ピロリ菌をご存知でしょうか?
最近はテレビや新聞・雑誌、健診などで一度は名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。正式名はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)と言い、胃の粘膜に感染するらせん形の細菌で、ヘリコは「らせん」や「旋回」という意味でヘリコプターのへリコと同じです。バクターはバクテリア(細菌)の意味、ピロリは胃の出口(幽門)をさす「ピロルス」を意味し、幽門部に多く存在するため、あわせてヘリコバクター・ピロリと命名されたのです。
ピロリ菌は大きさが2〜5μm(注)マイクロメートルで片端に数本のべん毛を持ち、これを素早く回転させることで胃の中を自在に動き回ることができます。 ピロリ菌が強酸性下の胃の中で生育できるのは、ウレアーゼという酵素活性により胃酸を中和することで菌体自身を守ることができるからです。
(注)1μm=1mmの1000分の1
どうやって感染するの?感染率は?
感染経路は、口から口感染、糞便から口感染、飲料水感染(特に井戸水)など口を介した感染(経口感染)が大部分であると考えられています。日本では、40歳以上では70%以上の人が感染していますが、年齢が若い人ほど感染率が低下します。ピロリ菌の感染率は、乳幼児期の衛生環境と関係していると考えられており、
上下水道が十分普及していなかった世代で感染率が高く、海外をみると欧米では低く、東南アジアなどで感染率が高くなっています。
ピロリ菌に感染するとどうなるの?
日本人のピロリ菌感染者の数は約3,500万人といわれ、多くの感染者は自覚症状がないまま暮らしています。しかし、一部の感染者では急性胃炎、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌などの発症に関連し、WHO(世界保健機関)ではピロリ菌を確実な発癌因子と認定しています。ピロリ菌が引き起こす諸疾患の中でも胃癌は特に問題であり、2020年のがん統計(人口動態統計による全国がん死亡データ)では、胃癌は死亡数第3位(男性第2位、女性第5位)と報告されており、日本では胃癌の約99%がピロリ菌感染によるものです。
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌に関連する疾患の治療および予防のため、ピロリ菌感染者のすべてに除菌療法を受けることが強く勧められています。
どうやって検査するの?
ピロリ菌感染の検査には、内視鏡により採取した胃の組織を必要とする検査法と、必要としない検査法があります。検査1つだけでは偽陰性の場合もあるため、疑わしい際は複数の検査法を組み合わせて診断します。
小児期の被ばく
小児は大人より余命が長く、発がんする可能性のある期間が長い、検査で被ばくする機会が多いといった特徴があるため、成人と比べるとリスクが高くなります。小児検査の際は体格に応じ線量を減らしています。
どうやって治療するの?
ピロリ菌の除菌治療は、一般的には1種類の「胃酸を抑える薬」と2種類の「抗生剤」の合計3剤を併用した1日2回、7日間の内服治療が行われます。一次除菌の成功率は約70〜80%、一次除菌に失敗しても二次除まで行えば除菌成功率は約90%であると報告されています。
除菌に成功すると潰瘍が再発しにくくなることが知られており、 また除菌することで胃癌発症リスクが3の1〜3分の2程度に低下することが知られています(それでも未感染者と比べると胃癌リスクは50倍ほど高いです)。ピロリ菌に感染している大人から子どもへの食べ物の口移しも感染の一因となるため、親世代が積極的に除菌を行うことで子世代への感染も防ぐことが出来ます。
最 後 に
このようにさまざまな影響を及ぼしているピロリ菌に対して、まず私たちは上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受けていただくことをお勧めします。胃カメラはピロリ菌感染だけでなく、食道や胃、十二指腸の病気の早期発見にもつながり、ピロリ菌除菌後であっても胃癌リスクはゼロにはならないため定期的に胃の状態を確認していくことが大切です。
最後に、今回はピロリ菌についてお話をさせて頂きましたが、ピロリ菌だけでなく胃腸のことで気になることがあれば、お気軽に当院に御相談ください。