肝細胞がんのお話
消化器内科
はじめに
日本が長寿国であることは皆さんご存知のとおりです。日本人の平均寿命は、2017年では、女性が87歳、男性が81歳です。ヒトの最大寿命(限界寿命)は120年といわれていますが、なぜヒトはそれ以前に死亡しているのでしょうか?3大死因は、がんなどの悪性新生物、心疾患、脳血管障害です。ただ、その死亡数は、心疾患、脳血管障害が減少しているのに比べ、悪性新生物は一貫して増加の傾向を認めています。その中で、肝臓がんは、男性では肺、胃、大腸に続き4位、女性では大腸、肺、膵、胃、乳房に続き7位の死亡原因となっています。肝臓がんによる死亡は減少してきているものの、2016年には、28,528人が亡くなっています。
肝細胞がんとは
肝がんには、大きく分けて、肝臓の細胞からできる「原発性肝がん」と他部位から転移してきた「転移性肝がん」があります。原発性肝がんはさらに肝細胞がん、肝内胆管がん、混合型肝がんに分けられ、90%は肝細胞がんです。
肝細胞がんが正常な肝臓に発生するのは非常に稀なことです。ほとんどの場合、慢性の肝障害が背景にあります。それは、長期にわたり何らかの原因で肝臓の細胞の炎症と再生が繰り返される中で、肝臓の線維化が起きた状態です。皮膚が傷ついた後、傷跡が残るのと同じようなイメージです。線維化の程度は、慢性肝炎から肝硬変へと進んでいきますが、その過程で細胞の遺伝子が突然変異を起こしやすくなり、がん化する確率が高まります。
慢性肝障害の原因は、B型及びC型肝炎ウイルスの持続感染、常習飲酒、非アルコール性脂肪性肝疾患、自己免疫疾患です。
以前は、肝細胞がん患者さんの90%は、B型およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝障害が原因でした。私どももそれらの患者さんを発がんの高危険群として、早期発見に努めておりました。しかし、時代とともに肝炎ウイルスを持たない肝細胞がん患者さんの割合が増えてきました。九州肝癌研究会のデータでも、昨年ついにC型肝炎を上回る発がんの結果となっています。(図1)
その中でも、肝細胞がんの発生母地として問題なのは、脂肪性肝疾患・脂肪性肝炎です。この疾患は、飲酒を含めた生活習慣に由来しており、とくに糖尿病・脂質異常の患者さんに多く見られます。
肝細胞がんの検査
肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、障害がある程度進まないと症状は出ません。肝障害が進むと、食欲不振、全身倦怠感、黄疸などの症状が出ますが、肝細胞がん特有の症状ではありません。肝細胞がんの早期発見には発がんリスクの高い患者さんのスクリーニングが必要です。
まずは、血液検査と腹部エコーを行ない、造影CT・造影MRI・造影エコーにて精査します。
肝細胞がんの治療
肝細胞がんの治療には、肝切除術、ラジオ波やマイクロ波による焼灼術、エタノール注入術、肝動脈塞栓術、肝動注化学療法、全身化学療法、放射線療法、肝移植、分子標的薬などがあります。治療法の選択は、がんの進展度(大きさ、数、脈管侵襲、肝外転移)や悪性度とともに、その人の持つ肝予備能が重要な要素となります。肝予備能とは、肝臓が障害を受けても代償して働く余力のことです。当然、肝細胞がんが進行した状態や肝予備能が低下した状態の生命予後は悪くなります。しかし、肝予備能がよければ、進行した肝がんでも十分に治療できることがあり、早期の肝がんでも肝予備能が悪ければ治療困難となります。
がん治療は常に再発が問題となりますが、肝細胞がんは二つの再発形式があります。一つは、治療したがんからの局所再発や画像上診断できなかった転移巣からの再発で、もう一つは新たな肝細胞がんの発がんです。新たな発がんの予防は、慢性の炎症を沈静化し肝障害の進行を抑えることです。
まとめ
C型やB型の肝炎ウイルスの治療が進む中、肝細胞がんは、今や糖尿病や脂質異常などの生活習慣病に伴い出現する疾患となっています。脂肪肝も徐々に肝硬変へ進むものがあり、食生活の改善や運動が必要です。また、肝細胞がんの早期発見には定期的な経過観察が必要です。
この記事は2019年1月現在のものです。